音楽レビュー Dee Dee Bridgewater


Dee Dee’s Feathers (2015)


(★★★☆☆ 星3つ)



最初に二つ断っておく。まず、星3つなのは音楽の出来の問題ではなく、純然たる私的好みの問題。上質であることは保証されている。そしてもう一つの断りは、このアルバムはDee Dee Bridgewater単体名義なのではなく、トランペッターIrvin Mayfieldと名門ジャズバンドThe New Orleans Jazz Orchestraとの連名アルバムであること。オープニングナンバーの”One Fine Thing”からして3者が濃密に絡み合う。軽みのあるリラックスしたナンバーもあるが、全般に世界は深い。
ジャケットのアルバムタイトルの右に「Okeh」の文字。結構大きくて違和感のあるフィーチャーだが、このアルバムはDee Dee BridgewaterがSONY/Okehレーベルに移籍した第一弾だとか。それで目立ち気味に入っているのだろう。

やはり相変わらず発声や声質そのものが自分の好みではなく、果敢なインプロヴィゼーションはRachelle Ferrellのようにアグレッシブ(そこもまた好みでない)。お勉強のためだなあと思って聴いていると、どうにも楽しめなくなってくる。

お勉強といえば、このアルバムがリリースされるにあたってのメイキングビデオがYouTubeに公開されていて、Dee Dee BridgewaterとIrvin Mayfieldのコメントが聞かれる。ジャズのオリジンたるニューオリンズを体験する意味について2人が話していて、ああやっぱりお勉強だなと思う。ずばり”New Orleans”という曲も入っている。考えるな、感じろ、とは言うが、ジャズは勉強しないとできない・聴けない(真価が分かりにくい)音楽なのだなあと尻込んでしまう。

曲はよく知られたナンバーが並び、その点ではお勉強不要。あああの曲がああなるのか、と聴けばいい。しかし、どうにも厚い壁を感じてしまって、ジャズに二の足を踏む感じになってしまった。アメリカは自由の国に見えて、実はクラスや格式が大好きだ。ジャズも歴史を持ってきて、そうなっているのだろうかと複雑な気がした一枚。ジャズ好き・コアなDee Dee Bridgewater好きにはいいアルバムなのだろうが。(2015/8/17 記)

Midnight Sun (2011)


(★★★★☆ 星4つ)

テネシー州はメンフィス出身、グラミー賞・トニー賞の受賞歴あり、と、堂々たる存在のベテラン。しかし何故か自分の興味のアンテナに引っかからず、これまで名前を横目でちらりと眺めては見送ってきた。それが、今年(2011年)アルバムが出ているのを知って、聴いてみた。

円熟味というか迫力がすごい。1フレーズごと、1音符ごとに神経が行き届いている歌い方。歌の説得力というのは、こういうのをいうのだろう。有無を言わせぬ感じだ。”Good Morning Heartache”のように耳に馴染みのあるスタンダードナンバーも、なるほどこういう歌い方か、と新鮮に聴こえる。

が、有無を言わせぬ所をあえて一言言わせてもらうと、(笑)敢えて地声で伸ばす歌い方や、くどさが自分の好みではない。大御所でいうと、Dianne Reevesのあの艶やかさ、コントロールされたソフィスティケイテッドな加減というか、そういう方が自分の好みにはぴったりくる。ああ、この微妙な好みの違いが長年Dee Dee Bridgewaterから自分を遠ざけさせてきたのだな、と、聴いて妙な納得の仕方をした。それでも、優れた作品と思う。クールなハードボイルドから軽快なボサノバ風まで自在に渡っていける幅の広さ、そしてそれを1枚のアルバムにまとめてしまうすごさは、やはりこの人の力量のなせる技。女性ボーカルジャズを聴くなら、やはり一度は聴いてみる価値のあるものと思う。