音楽レビュー Cassandra Wilson


Coming Forth By Day (2015)


(★★★★★ 星5つ)



Cassandra Wilsonについてはある程度まとまった数のアルバムを聴いてきたが、レビューにページを割いてこなかった。これはBillie Holidayの生誕100周年を記念してのトリビュートアルバム。大方全てのジャズシンガーがBillie Holidayに対しての尊敬と憧憬を口にするように、Cassandra Wilsonも並々ならぬ入れ込みようだ。リリースのプランニングにあたってはクラウドファンディングを募ったようだ。

さて、ファンディングは無事目標額を上回り、陽の目を見たこのアルバムだが、当初聴くまではBillie Holidayトリビュートという企画がありふれていて、少し気分が下がっていた。
俺の音楽ライブラリーの中には、Billie Holidayを映画で演じてトリビュートアルバムを出したMiki Howardのアルバム”Miki Sings Billie: A Tribute To Billie Holiday”もあれば、Viktor Lazloのその名も”My Name Is Billie Holiday”というアルバムもある。その他、代表曲といってもいい”Strange Fruit”は、Annie Lennoxのジャズカバーアルバム”Nostalgia”にもIndia.Arieの”SongVersation”にも収録されていたしと、あまりにも色々なジャンルの多くの人がカバーし聞き飽きていたのと、俺自身はBillie Holiday世代ではないので、賞賛に値する偉大さを実感として持たず、企画がありふれたものに感じられたのだ。

そこで、聴き方としてはジャズスタンダードナンバーを歌うCassandra Wilsonのアルバムで、そのナンバーがBillie Holidayに起因するというスタンスにした。
世界は濃密で、Cassandraならではの深く低いトーンが心地よい。無論、Billie Holidayの生涯と音楽に投影されたブルーな影を考えると、心地よいという言葉は語弊があるが、音楽を自分のものに消化したうえで歌い上げていて、完成度という意味でスムーズ。やはりそこはキャラクターと貫禄というべきか。お約束の”Strange Fruit”ももちろん入っている。ブルージーでジャジーでエキゾチックで、文句のつけようがない。他の曲にしても、よい緊張感があり、一音一音にCassandraの本気を感じる。

カバーであり、トリビュートであり、プロジェクトアルバムではあるが、それでも聴く価値がある。(2015/4/8 記)