音楽レビュー RuPaul


American (2017)


(★★★★☆ 星4つ)




RuPaul’s Drag Raceの成功などにみる近年のRuPaulの活躍はもはや一アーティストではなく企業家といえるものだが、その一方でコンスタントにアルバムを発表し続けるのは意義深い。因みにリリースは2004年の”Red Hot”以降はオウンレーベルRuCo, Inc.から。

肝心の音だが、分かりやすいハウスを基調としながらも、少し現代的な音作りになった。典型的なEDMそのものになることを注意深く避けながらも、そのエッセンシャルな美点を取り入れた音作りは、2015年の前アルバム”Realness”から確実に真価を感じさせる(2016年の”Butch Queen”は未聴)。EDMは結果的には所詮技術偏重のお遊びにしか過ぎないと個人的には思っているのだが、アタックタイムの短い音や、シンセの音をもう一度面白いと感じさせることには成功した。そこに関しては、EDMにも少し見るべきところはあると思う。みんな紋切り型なのには飽き飽きだが。

RuPaulがプロだなと感じさせるのは、声のコンディションを保っていること。あの初作”Supermodel Of The World”から変わっていないのではないかと思わせられるほどで、美声ではないのだが、キャラクターの立った声をそのまま保っていられるのはやはり努力なしではなし得ないものだ。

そして、訴える歌詞が、きちんと真正面から愛を訴えているのがまた良い。アルバムを”American”と名づけ、そうしたことをアピールするのはもちろん時代背景を考えてのことだろう。その点でも意義深く、聴くべきアルバム。(2017/4/11 記)

Realness (2015)


(★★★★☆ 星4つ)




RuPaulがダンスフロアーに帰ってきた。こういうのを待っていた、という人も多いのではないだろうか。原点回帰的なアルバムで、ややもするとStonebridgeやE-Smooveがやっていたような90年代ハウスの音そのままなのは懐古的すぎるかとも思えるが、それは意図的で、InterludeにはRuPaulがダンスフロアーの思い出や小さい頃のエピソードなどを語っているので、そうしたコンセプトに沿った音作りなのは明らか。ともかく踊れるアルバムになっている。

タイトル曲”Realness”はEric Kupperをフィーチャーしている。この曲は音数も整理されたクリーンな音作り。ハウストラックメーカーがボーカリストをフィーチャーするというのはよくあるが、RuPaulは逆をやってのけている。

全体にもうちょっとトライバルな音があってもよかったし、EDMの流行りに乗るだけが能ではないが、2015年の今になったからこそ作れる音が入っていてもよかったのかなという気はする。しかし、ともかくハウスを見直して全般ダンスで押した姿勢には拍手。おさえておくべきアルバム。ちなみに”LGBT”というタイトルの曲もあり、LGBTにエールを送っていて、ただ懐古的・原点回帰的だけでない姿勢が◎。(2015/3/20 記)

Born Naked (2014)


(★★★☆☆ 星3つ)




前作に比べると、クラブ系の音を離れて自分の世界を構築することについて、こなれてきた印象がある。流行りをうまく取り入れることもファッションアイコンであるRuPaulには必要なことなのだろう。

しかし、せっかくのMartha Washのフィーチャリング曲”Can I Get An Amen”も、デラックスバージョンに収録のリミックス版含め何だか肩透かしな感じだし、アメリカンロック然としたタイトル曲”Born Naked”も何だかそぐわない感じがする。

意外だったのはジャクソン家の鬼っ子LaToya Jacksonを”Feel Like Dancin'”でフィーチャーしたこと。LaToya Jacksonは数年前から音楽シーンに復帰を試みているようだが、ここでRuPaulと組むとは。ただ、その人選は意外だとしても、曲自体は一番RuPaulらしいクラブシーンに馴染む曲でいいと思う。(2015/3/20 記)

Glamazon (2011)


(★★☆☆☆ 星2つ)

結論から言うと、こんなに残念でショボいRuPaulは初めてだ。1993年に出た衝撃のデビューアルバム”Supermodel Of The World”以来、もうこんなに長く、しかも多方面で活躍していてRuPaulは好きなアーティストだけに、裏切られた感が強い。

まず、もう時代遅れ気味のグウェンステファニー風エレクトロファンクが、いかにも狙ったが遅れた風でいけない。他もなんだか貧乏臭い音が並んでいて、RuPaulならではのキラメキ感がない。そして、一応このレビューではハウスに分類したが、ハウスが少ない。聴けるのはラスト2曲くらいだが、それも音としての面白みがないし、ボーカルにハリが感じられない。シングルが出たらそのリミックスで救ってもらう他ないと思うが、このアルバムの出来は悲しすぎて、もう聴かないと思う。