映画レビュー 沈黙-サイレンス- (Silence)



(★★★★★ 星5つ)



遠藤周作の原作は読んでいて気になっていたこれをようやく鑑賞。原作に対して最大限敬意を払ったうえで作られたことがよく分かる。衣装、セット、時代考証、ロケ地の選択等々、相当苦労があったことが容易に推察される。旧時代の外国での出来事を映画化するとなると、少しでも誇張表現や、典型的すぎる描写があると、差別的と槍玉に挙げられる危険があるなか、まず敬意ありきの姿勢を貫徹した結果、その危険は回避され、物語の主題にフォーカスさせることに成功している。

これはマーティン・スコセッシ監督の手になるアメリカ映画だ。それゆえ、英語で物語は描かれる。それは、フランスが舞台であろうとロシアが舞台であろうと、登場人物が英語をしゃべる他の映画と変わらない。内容伝達の手段の言語として英語が選択されたにすぎない。なので、17世紀の日本の村民が語彙力も豊かに英語をしゃべり、藩主もまた堪能であることは気にならない。英語をしゃべる中にも日本に導入された言葉は日本語寄りで発音されるような箇所は、配慮である。それも過ぎれば差別と言われかねないところを、絶妙なラインを突いてしゃべらせている。俳優達も大変な苦労があったことと思う。

それらの苦労は時代の背景を含め、神の存在、信心と方便、殊に生命がかかった場合の方便とのせめぎ合い、信仰の本質とは、といった、複雑な要素を見事に描き出すことに結実している。2時間41分と長い映画だが、この濃密な世界を描くのには必要な長さで、むしろよくまとめたものだと思う。

内容に関する感想は、原作に忠実な出来ゆえ、原作に準ずる。原作を読んだ時には頭の中で想像していたことが映像化されると案外がっかりすることが少なくないが、これは、より細密にニュアンスを拾い、印象を鮮明化してくれたもので、感謝したい。エンディングだけは若干説明しすぎな感じがするが、それを差し引いても、大変良い出来であることに傷がつくことはない。

しかし、日本の名優達の気炎もそら恐ろしいほどで、こんなに優秀な俳優達が日本にいたのかと思う。イッセイ尾形、浅野忠信、塚本晋也等、素晴らしい。こうした人材が日本にいながら、邦画はお手軽学園コミックやらエンタメアクションものやらばかりで役者達を活かせていないのは、悲劇としか言いようがない。そして、こうした史的にも意義深い作品を映画化して日本の歩んだ軌跡を描くには、外国資本で洋画でなければできないことを悔しく思う。必見の映画。(2017/5/28 記)