映画レビュー ヒットラー (Hitler)



(★★★★☆ 星4つ)

カナダで制作されたテレビ映画で、第1部:我が闘争、第2部:独裁者の台頭の全2部から成る。ヒットラーが10代で母親と死別してから、ヒトラーの主導権が確立されたナチによる突撃隊等の粛清、いわゆる長いナイフの夜事件まで、いかにして狂気が狂気を呼び、惨劇を生み出していったかを、2部構成で描く。

各種のレビューでは「ヒットラーが英語を喋ってるなんておかしい」などとの評も見るが、テレビ映画であり、英語圏の人は字幕に慣れていないものでもあったりするから、特にそこに違和感はなかった。
もちろんどこかの国のテレビドラマの茶番とは違い、演出上の時代考証もしっかりしているし、Robert Carlyle演じるヒットラーの演説口調は、実物のヒットラーの、あの漫画チックで自己陶酔的なアジテートするオーバーアクションをよく再現していて、観るに堪えるだけの質は備えていた。

さて、貧困に喘いでいた自己愛性人格障害著しい少年が、社会に対する憎悪を民族差別に仮託して人々を悲惨な過ちへと扇動していくボスへと変わっていく様だが、こうして映画でわかりやすくその筋を追っていっても、「何故」そこに当時のドイツに支持されてドイツを支配するまでになるほどのキーがあったのか、未だ理解し難い。
社会の憤懣、大戦時代の各国の思惑と不穏な動き等々が組み合わさったところに生まれ落ちた邪悪の種が芽吹き、根を張り、徒花を咲かせるのは、「何故そんな馬鹿なことが」と今からならば思えるにせよ、今この時代にも凡そ社会正義とは程遠い人物が政治で台頭していたり一国の代表者になっていたりするから、そこに「何故」を追い求めても、実は得られない。理由を分析しようとするよりも、史実を事象そのまま踏まえておいて、その愚かさを忘れないようにすることが大事なのだろう。

不穏できな臭い事件が頻発する現代において、観ておいてほしい作品。ヒトラーの、すぐ激高して叫んだり人を罵倒したりする様にはウンザリさせられるけれども、そこもまたその嫌な様を学習しておかねばならない。が、人が怒鳴ったり抑圧されたりするところは嫌なものだ。そこが本作を星4つとして1つ減じた理由。しかし映画的には名優も数々フィーチャーされており、その点で見応えはある。(2014/8/3 記)