映画レビュー ボヴァリー夫人とパン屋 (Gemma Bovery)



(★★★★☆ 星4つ)



ノルマンディーの小さな村でパン屋を営む主人が主人公である。しかし、当然華があって俄然目を引き、物語を引っ張っていくのはボヴァリー夫人。うら若きイギリス人で、フランスの食が好きという夫と共にノルマンディーに移り住んできた女性。

文学作品に詳しい人なら、題名だけで「ボヴァリー夫人? あの?」と思うだろう。ギュスターヴ・フローベールの手になる19世紀の小説だ。周りを虜にし、スキャンダラスなストーリー運びの末に自殺するボヴァリー夫人。それがこの映画では同じ名前、ボヴァリーをまとって現れたのだ。19世紀の小説では夫人の名前はEmma、この映画ではGemma。パン屋の主人が小説の顕現を妄想するとおりに様々な人間がボヴァリー夫人を巡って…という運び。

フランスの田舎の美しい風景や、パンははっきり言って添え物。グルメもののように、見たらおいしいパンを食べたくなるかと思ったら、そうではなかった。この映画の軸は、いわば不倫物語とそれを覗き見る隣人の冴えないパン屋のオヤジ。それでも、そこはかとなく漂うひねった笑いや、オヤジの一歩間違えればストーキングにもなりかねないボヴァリー夫人への注視具合、そして奔放に見えて心をあちらこちらへと動かされ揺れるボヴァリー夫人の美しさが、観る者を飽きさせない。

いかにもダメ男風の配役があったり、金持ちで厭味かつ無神経な近所の英国人・フランス人夫婦がSATC風の出で立ちであったりして、その辺は少し分かりやすすぎる感じだが、基本は皮肉な笑いをスパイスにしているだけに、平明すぎはせず。

物語の最後はいかにもコメディー仕立てな感じで、それを観終えるとコメディーだったなあと振り返ることができるのだが、映像美が保たれているのはさすがにフランス映画。大人が観て楽しめる。現在劇場公開中だが、DVDが出たら大人のお部屋デートには最適の一本だろう。(2015/9/7 記)