映画レビュー ブラック・スワン (Black Swan)



(★★☆☆☆ 星2つ)

ストーリーがだいぶお安い。プリマドンナを巡る女のドロドロを展開されても困るのだが、そこはさらっとしていて助かったものの、触れ込みではナタリー・ポートマン演じる主人公が役作りに苦悩する時に自分の暗部に気づき次第に…とあった。
が、そんな漸次的変化は楽しめない。ただ単に強迫神経症と統合失調症を併発するかのような幻聴・幻覚・思い込みが出てきて混乱する中、演技をやり抜くために黒鳥が本番で狂気の中(突然)演じられるだけ。自分の深淵に気づきながらもそれと同居していって人間が開いて(あるいは堕ちて)ゆくという深みを期待していると、「なーんだ。こんなのか」と裏切られる。

そしてその狂気の発現を描く様も、これまたお安く、全然スリリングでない。特にCGは噴飯物。なんというか、全体に分かりやす過ぎるというか、舞台監督の監督(薄い唇のいじわる顔系)やプリマのライバル達のキャスティングとか。不穏な空気を感じさせるのでいうと、主人公の母親の加減はよかったと思うが。

この映画が評価されたのは、とにもかくにもナタリー・ポートマンの役作りにあったのだと思う。女性で背中の筋肉が浮き出るほどダイエットして、いかにもバレリーナらしい出で立ちになっていて、踊りのシーンも(代役は使われているのだろうが)無理がない。
ただ、『Vフォー・ベンデッタ』の時もそうだったが「体当たり女優」的なそれが、安っぽさをカバーするどころか、「あー、頑張ったんだね、必死だね」という、ポートマン本人へのフォーカシングになってしまって、映画の役そのものの意義がかえって薄れる形に帰結していて、残念。映画館で鑑賞したのだが、特に今回のキーになるはずだった性的描写は、観客がいわゆるドン引きしているのがありありと分かった。レンタルDVDでの鑑賞で十分。