映画レビュー 砂の女



(★★★★★ 星5つ)

安部公房原作の同名小説の映画化。前々から見たいと思っていた。監督は勅使河原宏。草月流三代目家元であるが、映画監督として注目を集めた人。

作りやストーリーは原作にほぼ忠実。映像化されると説明化されすぎるところもあるのだが、自分の中で思い描いていた感じとフィットしていた。

あの、ミニマリズムにも通じる無彩色の舞台設定の中、観客を飽きさせずにどう描いてゆくのかと思っていたが、退屈は杞憂だった。シュールな設定と、常識人であろうとしながら飲まれていく主人公、男と女のリアルな心情が見事に描き出されている。約2時間半と比較的長い映画だが、そこにダルや冗長はない。

この映画で何と言っても目を引くのは、主人公よりも圧倒的に岸田今日子演じる砂の女だろう。何せ、タイトルが『砂の女』なのだから。鬼才である。ファンタジーの中の存在のようであり、なまめかしい人間であり、現実と虚構を自在に渡り歩いて見せ、惹き込む。

芸術的に意義深いこの作品を見るにつけ、今の日本の映画は朽ちているなあと思う。とっつき易く面白いもの、共感を得られやすいもの、チープな感動、ゲーノーカイでの売り出しとの妥協と打算でしか映像が生まれない。たとえば超絶技巧での職人技で生み出さていた工芸品が今ではロストテクノロジーと呼ばれて生産し得ないように、こうした映画も一種のロストテクノロジーなのかと思いつつ、驚愕して見た。(2017/7/1 記)