ブックレビュー スティーヴン・キング


幸運の25セント硬貨


(★★★★☆ 星4つ)

短篇集。文学的作品と捉えて読もうとすると違和感があった。もちろん文学的体裁を保ってはいるのだが、修辞の先にある意味はなどと考えて味わおうとするよりも、やはりスティーヴン・キングはもっと俗な、頭のなかでストーリーをビジュアライズさせながら読む娯楽なのだろう。

そう捉え直してみると、いくぶんページを繰る手が止まりがちだったのが、速度を回復した。翻訳も、最初の俗っぽさが気になっていたのが、そうしたキングの特質をよく理解している訳者にかかっているのだろう、捉え方を改めて後半はすんなり読むことができた。

俺はホラー映画が好きで時々密かに観るのだが(パートナーはホラーが大の苦手で話題にしただけで嫌がるので、パートナーが寝てから見るか、書斎で観るかする)、この本には期待していない収穫があった。それは、映画『1408号室』(レビュー未掲載)の原作がこの本に収録されていたからだ。本の裏表紙の紹介にはそのことは書かれていなかった。
肝心の原作はどうだったというと、どうにもケツが拭けていないなという印象で、映画の方がよくできていた気がする。
キングが本領を発揮するのは、日常の隣にある、あるいは日常を送る普通の人々の中にあるドロドロや異質な体験をドラマにして浮き彫りにする、徹底したリアリティーだと思うのだが、どうにもその描き出したかった物が曖昧模糊としていたからだろうか。

キングファンなら押さえておきたい一冊だろう。ファンでもhaterでもない俺としては、読んでまあまあというところだったが、エンターテインメントのヒットを数限りなく提供してくれる御大作家に敬意を評して星4つ。(2015/7/20 記)

夜がはじまるとき


(★★★★☆ 星4つ)

映画はいくつか観たが、本を読んだことはなかった。この本には全6篇の短篇が収められていて、作家としてのキングを好きになれるかどうか(映画の原案者としては好きだが)を試すにはちょうどよかった。

そして個人的には、作家としてのキングは「やや好き」くらいかと思う。これを読んだだけでは最終判断にはもちろん早すぎるのだが、文体や描写の特徴を知ってそれが自分の好みとフィットするかどうかを知ることはできた。

「好き」と単純に断言できなかったのは、最初に収められた怪異譚『N』の未消化感からだろうか。神経症が精神科医に伝移する様を書いているが、本当のその原因現象が実は何であったのかを謎のままに終わらせているのが、せっかくの怪異現象の発現から深化までを克明に書いているのに、そぐわない感じがしてしまったからだ。
そして怪現象を引き起こす『魔性の猫』ではどうしてもポーの『黒猫』を思い出してしまう。あれはモチーフとして強力で超えられない先駆ゆえに致し方ないかとは思いつつ。

しかし、他に収録された作品を読むにつけて、発想力の豊かさ、設定の緻密さ、肝とも言える物語の展開のダイナミックさは、やはり一流作家だけあると思わされた。読んで価値のある短篇集。(2014/6/27 記)