ブックレビュー ミネット・ウォルターズ



(☆☆☆★★ 星3つ)

イギリスの低所得者向け団地で起こる騒乱を舞台にしたサスペンス小説。まず言っておくと、胸の悪くなるような叙述が延々と続くので、気分は憂鬱になる。そして読んでスカッとする結末は訪れない。その重苦しさを念頭に置いたうえで読む必要がある。

団地にいつく住民というと、偏見とは別にほぼ確立された風評というものが、この日本にはあり、それは団地が成り立ってきた頃から醸成されてきたもので、今はちょっとインターネットを検索すると出てくる。それには触れないが、この小説ではそれをもっと酷くし、あからさまな問題の巣窟として団地が描かれている。おそらく、フィクションであったとしても、日本では地域差別だ何だと言われて、この叙述は無理だろう。

この小説内では、ドラッグ中毒者、教育程度の低い累犯者、シングルマザー、そしてメインテーマになる小児性愛者の問題が、臭ってきそうなほどリアリティーにあふれて描かれ、しかもくどい。そこへ切り込むはずの警察の手際の悪さ、騒動に巻き込まれた人々の行く末や、そもそもの発端となる出来事の引き金を引いた者の設定、いずれもが読み手の反感を買うように描かれている。そしてその印象の悪さが物語が進んで行くうえでどうにか解消されはしないかと期待する読み手の心をエンジンに、物語は展開していく。

要するに読んでいて気分が鬱屈することこのうえないのだが、そうした不快感を燃料に推進させてゆき、かつ作者の社会的視点は一切そこに挟まれないドキュメンタリー志向の書き方は、好き嫌い別れるところだろう。

陰鬱で救いはないが、展開はドラマティックで、読んで無駄だったという気にはならない。もし興味が湧けば、読んでみる価値はあるだろうが、俺としてはしばらくこの作者の本を他に読んでみたい気にはならないだろう。この本にはそれだけ人を打ちのめす力があるということでもあるが。(2015/11/8 記)