ブックレビュー『色のない島へ―脳神経科医のミクロネシア探訪記』


オリヴァー・サックス(著)


(★★★★☆ 星4つ)
この本は全色盲が高率で発生するというミクロネシアの島を訪れた脳神経科医の著者が感じたところを記した紀行本で、医学的考察が厳密にされている学術本ではない。なので、医学関係者でない一般の人も普通に読み進めることができる。

本書は2部構成になっている。まず第1部では、近親婚を原因とする遺伝病として全色盲が高率で発生するピンゲラップ島とポーンペイ島を著者は訪れ、見聞きしたことを徒然に書き記している。同じく全色盲のヨーロッパ人を伴って彼は訪れ、実際上の患者との触れ合いを元にしながら、島の歴史と風土をエッセイ風に綴る。

次いで第2部では、パーキンソン病や認知症に近い症状を呈する風土病の調査のため、グアムとロタ島を訪れ、その原因と考えられている毒素が、ソテツ食にあるのではないかとの説を考察する。

こうした病気の実態があることを世に知らしめる意義はあるものの、これは紀行本だから、とても個人的な興味に基づいた内容になっている。この構成は自由だし、偏見や差別に基づかない限り書き記すことも自由な訳だが、特に著者の幼少からの植物への興味から一種の偏愛といってもいい、シダ植物やソテツへの興味にウェイトが置かれていくに従って、読んでいるうちに読み手は何のために読んでいるのか、不思議な気持ちになってくる。

本書は『色のない島へ』(原題も”The Island of Colorblind”)で、これはとてもキャッチーだが、つけるとするなら『全色盲、そして私のソテツ愛』あたりが適当ではないかと思われるほどなのだ。

それでも、知らなかった世界を見せてくれる意味ではこの本は面白い。それに、欧米人が物珍しさに太平洋の島々を訪れて「上から目線」でエキゾチズムを語るというありがちな不愉快さはなく、知識人らしく現地の人々に敬意を払って接している様子がうかがえ、そこは安心。未知を知に転換するためには好著。(2015/7/18 記)