ブックレビュー『魯山人味道』


北大路魯山人(著)


(★★★★★ 星5つ)

料理に関し、本質と上質を見極め、求道するについて、魯山人は最右翼だったと言える。この本は魯山人の『料理王国』その他から、食についてのエッセイや一言を集めた本だが、「そうそう」と相槌を打つ所が多かったと同時に、「そこをそうしてはいけないんだよなあ」と、心情は分かりつつも自戒としたい所とが多かった。以下に詳述する。

まず、相槌を打ったところ。ほんのちょっとした手間を惜しんではならないということや、器を疎かにしてはならないということ、料理人を盲目的に称賛せず家庭の味を大事にすべきことなどは、まさにそう思う。お手軽テレビ文化が料理を破壊していることを嘆くことにも共感する。魯山人は極貧の若年期を経て成功し、随一の美食家となったわけだが、そうした下層から最上層までを体験していることから、富める者と貧しい者があること、それぞれの層にそれぞれに合った食の美学があるべきことを直截に述べていて、そうしたこともまあ、受け止めるべきこととしては相槌を打つことができる。
そして名言とも言える記述がたくさんあり、書中ページを折って留意した箇所がいくつもあった。曰く、

私の考えていることは日常生活の美化である。日々の家庭料理をいかにうつくしくしていくかということである。

宴会的な飾る物ではなく、身につく食事、薄っぺらな拵えものではなく、魂のこもった料理、人間一心の親切から成る料理、人間をつくる料理でなければならない

ふだん、美味いものを食っているからと言って、必ずしも味が分るとは言えない。(中略)三井、岩崎など、日常美味いものを食う機会に恵まれていても、生涯味が分ることもないのは、そのそのよい例であろう。

最後の引用は金に明かした成功者に一矢報いる言葉としてなかなか辛辣だが、本質を突いているといえる。

反対に、心情は分かりつつも自戒としたい所。その求道ゆえか、口が過ぎるというべきこともあって、美を美と解さぬ者や、いい加減なことをする者について、その不分明を「馬鹿にしたくなる」とあったり、憤慨極まったりしているが、これが行き過ぎて魯山人は後年、家族に棄てられ、訪れる人もなく孤独な生活を送ったという。(注:後年については本書にないが、知られるところである)
このところ、俺自身にも、美的生活と相容れない事物や人について、不寛容になりすぎることがあり、これはよくないと思う。確かに、醜悪なる事物や人が大手を振って権勢を振るうことについては、断固拒否しなければ自分の美学は守れないし、ことによっては断罪しなければならないこともある。が、それが過ぎると、今度は自分の美学が人に受け入れられなくなる。世の中にはままあることだが、これは気をつけて自分でコントロールしていかねばならないな、と読んで思い知らされた。

ともあれ、これは食に関する良書で、すべての人に読んでもらいたい。何故なら食事が人を作るのであって、万人が食生活を送っているのだから。(2013/2/27 記)