ブックレビュー『死都ゴモラ』


ロベルト・サヴィアーノ(著)


(★★★☆☆ 星3つ)

いわば、イタリアマフィアの実体告発本。Amazonのブックデータベースには「ノンフィクション・コラージュ小説」とか「捜査小説」などと書かれているが、小説ではない。小説風ルポルタージュと言った方がいいだろう。「小説風」と言ったのは、小説風に意識したのか、叙情的な叙述があるからであって、はっきり言ってしまえば、文章は下手。名詞止め・体言止めが多く、その言葉により持つ印象を読み手に委ねているが、そうした曖昧な手法を取ってレポートに修飾すれば小説になるというものではない。

文章の展開は、ただただ長々と状況説明が続くのみで、読んでいて疲れる。混迷しているイタリアの社会状況そのままのようだ。人名・地名の羅列は、記録することに意味はあるだろうが、読み手には効果的でないし、目で流した瞬間には忘れてしまうような書き方だ。少なくともイタリアの人名にもマイナーな地名にも慣れていない日本人読者にとっては。

と、文章という観点からはかなり疑問な印象を持ったのだが(訳者あとがきには文章家として高く評価されている海外の批評が紹介されており、そうすると訳の問題か)、内容はやはり衝撃的。イタリア衣料、ミルク、移民、産廃処理、レストラン、政治、etc…。至るところにイタリアマフィアが影響を及ぼし、牛耳っている様子に驚く。
南イタリア、ことにナポリを中心に叙述されいるが、これはもちろん南イタリアに限局されるものではなく、イタリア全体の問題だ。昨今、ナポリはゴミ問題に悩まされているが、それがなぜそうなったのか、この本を読めば問題の根深さが知れるだろう。産廃物が住民や労働者の健康をおびやかしているのは、発展途上国のみではないのだ。そして、固有名詞は覚えにくい本ながら、読者の頭の辞書には「カモーラ」(多くはカモッラと叙述されるが、本書にはカモーラ)と、「クラン」という組織名が加わるだろう。

この本を読むと、文章の冗長さと無駄な叙情表現、繰り返される羅列で疲れる。そして問題の後暗さを見て暗澹たる気持ちになる。つまり、ダブルでダメージをくらうのだが、読んだら読んだだけのものは与えてくれるだろう。ただし、読んだからといって何の解決もないのがまた辛いが。