ブックレビュー『エロス的人間』


澁澤龍彦(著)


(★★★☆☆ 星3つ)

この本を読んで、澁澤に対する心証が少し悪くなってしまった。澁澤はもともと論理などからは乖離したところにいる、良くも悪くも文学的な人間だから(本人もこの本の中で法律などには全然興味がないとの旨自白する一文がある)、この本ではエロスとはという分析的体裁を最初のうちは保っていても、そこには論理展開は成り立っていない。
また、体系的に「~とはなんぞや」ということを整理して書いたものでもなく、後半ではひたすらSM的陵虐や黒魔術的世界の叙述に耽溺し、迷子になっている。その支離滅裂ぶりを赦してやれる読者なら、これをエッセイや随筆や思索の本としてでなく、長篇散文詩でも書きたかったのだな、と思って読めるだろう。

皮肉の意味で面白かったと思えるのは、同性愛についてわざわざ(恥を晒して)一石ぶっているところ。ジャン・ジュネやコクトーに影響され、三島と交流があったにもかかわらず、この時代ならではの流行り言葉で言うと「イデオロギー」に基づいて、これが「性的倒錯」的なものとするのは、その時代もあり、澁澤程度の論理理解能力ではしょうがないだろう。悪や闇や現代流に言うとサブカル的世界に傾倒する自分の傾向世界に同性愛を含めたいが故に、これを「自然の摂理に反する絶対悪」と書いてしまったあたりは、読んでいて憐憫の微笑みさえ浮かぶ。

そんな訳で、頭の中はこんがらがってそれこそ倒錯しているが、そうした混沌を楽しみたいなら本書はお勧め。ただし、やはりこの手の論評風文章につきもので、その時代やその人にとっては重要で共通の知識であった人や物事が、今は意義が失われていて「誰それ?」とか「何それ?」と思うところは少なからず出てくると思うが、それもまたしょうがないことだろう。