ブックレビュー 『檀流クッキング』


檀 一雄(著)


(★★★★★ 星5つ)

檀一雄の小説家としての作品は読んだことがなく、専ら食への興味から読書。新聞の連載を一冊に編纂したこの本に載っているレシピはどれもごくまっとうだが、そのまっとうなことをわざわざ新聞に書いていたということや言葉の端々に、昭和40年代の食生活が、既に今のようなお手軽インスタント化著しかったことが知れる。

まだまだ西洋料理はハイカラなどと言われていた時代に、世界の料理の数々を紹介していたのが面白い。パエリヤなど、当時には思いもかけない新鮮な料理法だっただろう。そしてここに載せられている料理が、今のニュアンスで意味するオシャレを狙ったものでなく、ちょっと手間をかけてやってみると亭主をビックリさせられるとかいう風に紹介されるものはあっても、実現可能で、いわば地に足のついた料理であるのが実用的でよい。

実用性といえば、レシピの分量表記が○○グラムと書かれずに、いい意味で適当に書かれてあって、これは秀逸。 俺もブログにレシピを書く場合には、調味料の分量は目安として小さじ1杯半などという風には書くが、他は○○1本、××2個、などと作りやすいように書いておく。その時々によって塩梅も違うから、むしろそうした記録の方が後から見返して役に立つからだが、そうした本書の分量表記もとても性に合っていて、読んでいて大変参考になった。

もう時代が変わって、なかなか実現しにくいレシピもある。例えば、どじょう料理なんかは、「どじょう屋に行って…」とあるが、今の日本ではどじょう屋を探すことはほぼ不可能だろう。牛タン1本を買ってくるというのも難しいかもしれない。しかし、そうした時代の変遷による影響はあっても、料理に対する基本的スタンスや、「小難しく考えなくてもちゃんとした食生活は送れるのだ」というメッセージが心地よい本だ。(2013/1/28 記)