ブックレビュー『調香師の手帖 香りの世界をさぐる』


中村祥二(著)


(★★★★★ 星5つ)

資生堂の研究所出身で、香りの研究者である著者が、さまざまな香り(あるいは臭い)について記した本。研究畑出身らしく、化学名てんこもりだが、そこは「ふーん、そのにおいってそんな化学名のものなんだ」くらいに読み流せば、さほど苦ではないし、読み流しても本に書かれてある意味を見失わないから大丈夫。香りについては、香水や化粧品のメーカーでの実地体験を基にしているだけに花の香りについての叙述が多いが、上記の理系研究者としての癖を流してしまえば楽しめる。

著者は加齢臭の正体を突き止め、またあの臭いを加齢臭と呼ぶことを提唱した人のようだ。当然その話も出てくるが、よい香り、香りの美や精妙について求道した本人からすれば、そこがクローズアップされるのは、社会的インパクトとして大きかったにしても、不本意かもしれない。

研究熱心なことが文の端々からうかがわれるに、香りの第一人者は美の追求者でもあるのだろう。著者の立場を慮って言うとそうなのだが、読み手としての個人的な立場からすると、自分としては、資生堂の製品の匂いがどれもあまり好きではない。それを考えると、フンフンと感心しながら読んでいながらも、「でもこの人のセンスがあの匂いとして製品展開されているんだよな」と思うと、少々複雑だった。

それでも、香りを解明することについて心血注いだ人の、一般向け読み物として本書は好適。面白かった。