ブックレビュー よしもとばなな


なんくるない


(★★★★☆ 星4つ)

本人も解説で言っているように、観光客の目でみた沖縄を書いた小説短篇集なのだが、沖縄と聞いて沖縄に住んでいない人が思い浮かべるような一般的なイメージにほぼ沿った舞台設定になっている。
人と人との間柄をじんわりと描き出す独特の手法が堪能できるが、本のタイトルにもなっている小説『なんくるない』は、筆者の人生観の挿入された箇所が若干多いのと、展開の割にはやや長いので、少し読んでいてだれる。本人も上手く書けなかった旨、解説で書いているが。
最後に収録された作品『リッスン』は、よしもとばななにしては珍しく主人公が男なのだが、男の心理はどうにも分かっていない感じで、この人は素直に女性を中心に据えて書いた方がいいように思う。

とやや残念なポイントを書いてしまったが、日頃ぼんやりと感じていながらなかなか明確に叙述することのできない感覚や、まっとうな人が嫌だなと感じるが世の中にはままはびこっていることに立ち向かう時の心境などを、日頃使うやさしい言葉で見事に描いているのは、他の作家では見出し得ない美点。
また、どんなにシリアスな場面でもどこかに希望やユーモアがあるのもよい。『足てびち』なんていう作品は、読んでいてタイトルを見返すと思わず声を出して笑いそうになる。読者はたぶん女性が多いのだろうが、男女関係なく読む価値のある本。

デッドエンドの思い出


(★★★★★ 星5つ)

切なく、行き場を失った愛の成り行きや、別離した二人がまた愛を成就する(正確にはそこで名実ともに愛を再び確立する)物語たちが収められた、愛らしい短編小説集。

すべてはストレートの男女間の愛の物語なのだが、折に触れてレズビアンのことを素材に扱ったり、『キッチン』で女装の「お父さん」を過去に題材に取ったりした著者のこと、ゲイやレズビアンでもこのストレート達の物語を素直に楽しめるだろう。セクシュアリティの壁を越えて、恋愛時に人が織り成す感情のいじらしくも気丈な様を、見事に描写している。あとがきの冒頭がウィリアムズ・バロウズの『おかま』からの引用というのもfabulous。