ブックレビュー 島尾敏雄


夢屑


(☆☆☆☆☆ 星ゼロ)

島尾敏雄は第二次大戦中、特攻隊長だったのだとか。出撃しないままに終戦を迎えたらしい。それはそれとて、この夢屑だが、ほんとに屑だった。自分も気が向いた時にはブログで夢日記をつけているが、まあそうした個人的記録ならまだしも、書き散らしたそれを作品として出すのはどうか。しかも、その夢が面白くもない感じで、何なんだと思う。
文章もメモのレベルで、読ませ物として味わうに全然足りていない。書物が世にでる時にはそれを第三者が読むことを前提としなければならない客観性を完全に見失っている。

島尾敏雄は妻が神経症を病んだとか。心因性の精神症状に悩む妻との生活を描いた『死の棘』が代表作のようだが、作品として昇華していない生煮えの個人的体験を切り売りして作品でございますとイケシャアシャアと出してくる傲岸不遜かつ貧乏臭い根性が気に入らない。たとえば大江健三郎も大江光のことをグダグダ書き綴っているが、あれはまだ作中にモチーフとして出てくる扱いで、無関係の第三者が見て分かるようになっているからまだ救いはある。が、島尾のはまったくもってどうかと思う。
それにせよ、この夢屑にせよ、ひとりよがりの無意味な妄想独白は、バブル期の「トレンディー」小説を待たずして既にあったのだなあ、と思う。読んで大外れ。(2012/10/3 記)