ブックレビュー 伊藤計劃×円城 塔


屍者の帝国


(★★★★☆ 星4つ)

早逝が惜しまれる伊藤計劃の後を継ぎ、伊藤が生前交流のあった円城 塔が書き上げたという異色の小説。これを円城が書いたのは相当大変だったのではないか。伊藤も才能のある小説家だが、他者の着想とそのタッチを引き継いでそれを感じさせつつ遺構を完成させると、感想は決まって故人を上回ることはないだろうし、「できれば伊藤計劃一人で書いた物が読みたかった」と誰もが思うはずだろうから。

やはり苦労の後が偲ばれ、伊藤が得意とした洋書を日本語訳したかのように見せるルビふりのダブルミーニングなどのやり方は、少々オマージュを捧げるにトゥーマッチなのではないかと思わせるところもある。破天荒なほどの歴史空想小説ともいえる筋運びにも、多少のB級感を免れない。

しかし、それでもよく書き上げたと思う。屍者が動く原理は、そこそこのところでケムに巻いてしまうのかと思っていたら、最後の方で見事な着想を披露する。その着想は、少しフランク・シェッツィングの『深海のYrr』を思わせるが、発想として好きだ。

少しアニメチックで、そこは自分の好みに合わなかったが、しかし労作を完成させて、伊藤を成仏とは言わないまでも埋もれさせないでくれたことに、敬意を表したい。(2013/1/24 記)