ブックレビュー 小野不由美


黒祠の島


(★★★☆☆ 星3つ)

探偵小説は久しぶりに読んだ。結果は、まあまあといったところだ。グロを売り物にするエンターテインメントが氾濫して刺激に慣れっこになっていると、この本は殺人や因習に支配されているおどろおどろしさが売りなのに、現在では「足りない」と思ってしまうかもしれない。作者は高校時代にアニメ漫研部を作ったり、またこの作品は漫画化されているように、いかにもオタクが好みそうな、雰囲気やビジュアル、設定といったところがイメージソースになっているように感じられる。

村社会の排他性や権勢をふるい支配的にふるまう家、そしてそこにまつわる血縁からくる因縁などは横溝正史を思わせるが、クオリティーはそれにまったく及ばない。ストーリーに活かされない五行説を突然展開したり、九州の離れ小島でよそ者を嫌う設定の島民の言葉が皆標準語など、書くときにリアリティーをもたせる力点配分が違うのではないかとの違和感を感じる。

しかし島での惨事の元凶となる存在の設定などはうまく練られているし、読んでまるっきり不満だったとか損をしたという気はしない。ちょっとした息抜きにはこういうものもいいだろう。文章の味わいや叙述の美しさといった才能はまるで感じられないが。(2013/8/27 記)