ブックレビュー 久生十蘭


十蘭レトリカ


(★★★☆☆ 星3つ)

本作は短篇集。久生十蘭は鬼才であり、個性際立つ無二の存在であり、その作品が深く愛されることに異論はない。が、ただ単にこの本にはどうも入り込めなかった。まだ会社に通っていた頃、ブツ切りで読んだのがいけなかったのだろうか。

他聞に異国情緒、殊にフランス趣味を持込み、タイトルからして『フランス感(かぶ)れたり』という作品すらあり、その他中国だろうとどこだろうと自在に時空を超えて書きまくる才は恐れ入る。が、どこかその知への耽溺に置いてけぼりを食らってしまったように感じはじめると、とたんにその掘り下げが自分勝手なものに思えてしまって(まあ全ての作家は自分勝手なものなんだろうが、特に他者の存在を意にも介さないという意味での自分勝手に)、どこか作品に入り込めないままとなってしまった。

それでも、ただダークなだけでもなく、エキゾチックでエトランジェなだけでなく、時代的な言葉でいうとペーソスというのだろうか、深さとうまくバランスを取るような軽妙さもあり、巧い人なのだなあと思う。別の作品を読めば、真の良さが若手t来るだろうか。自分の読みの浅さが悔やまれた一冊。(2013/9/20 記)