ブックレビュー 平山夢明


東京伝説ベストセレクション2 錯乱した街の怖い話


(★★★★☆ 星4つ)

短編集。本の触れ込みには「現実世界の恐怖事件簿、都市伝説系実話怪談の”ワースト”選集、第2弾。」となっている。とありながら、本のタイトルには「ベスト」とあるのだが、そこは深くは問うまい。実話怪談とは妙な言い方で、実話のように語られた、という意味と解する。そのことを体験した本人(または本人が死んだり行方不明の場合には周りの人)から語られた形式で各物語は展開される。

まあそういう内容だから間違いなくB級なわけだが、すごいなと思うのは、残虐の限りを尽くして人の生理の嫌なところ嫌なところを突いてくるその想像力。現実世界でそうしたカルトな事件が起こると、大抵の人は被害者に対して「なぜその人がそんな目に遭わねばならないのか」という、問うても無駄でしかない疑問や、理の通じない犯罪者に憤りを感じるわけだが、そうしたストレスを読者に生じさせることさえ計算尽くで書いてある。

もはや都会でなくとも得体の知れない闇などは少なくとも日本には存在せず、他者の介在を頑として拒む特殊地域や集落もない。そうなると不可解な闇は人の心に病的に巣食うだけしか残っていない訳で、平山はのっぺりと明るく退屈なこの社会の間隙に、必死に影を作り出そうとしているのかもしれない。

独白するユニバーサル横メルカトル


(★★★★☆ 星4つ)

短編集。各物語のストーリーは整理されていて、その意味では総じて読みやすい。単語もバリエーションに富むので、文章そのものを楽しむ向きにも勧められる。

『無垢の祈り』のように、物語を回収しきれておらず、言葉を吐き出したいが故に書き散らしたのではと、読んでストレスを覚えるものも入っているが、どこにもないものを想像の限り書いてあって、読んだら読んだだけのものは返ってくる。

ただし、既成の倫理観にこだわる普通の人には、描き出されている残虐性・異常性は限度を超えるかもしれないので、知らずに手に取ると後悔する。2007年度「このミステリーがすごい!」一位らしいが、ミステリーというよりは、幻想小説。