ダークサイド II-2 アローン・アゲイン


『ダークサイド II-1 エナジー・ヴァンパイア』からの続き)

母 2度目の夫の死

携帯の留守電にメッセージが入っていた。普段、母からの電話は着信拒否しているのだが、たまたま海外旅行中で電源が切れていて、電源OFF時にかけてくると携帯電話内蔵の着信拒否機能がはたらかず、メッセージセンターに繋がっていたようだ。最初の1、2秒を聞いただけで残りは聞かず、消去した。この期に及んでまだ接触を試みられたのが精神的に圧迫となったので、電話番号と携帯メールアドレスを変えた。

それから10数日ほど過ぎて、妹に母からメールが届いたという。未だ母からメールをフィルタリングして拒否していないのが驚きだったが、それが何故なのかは後述する。

メールの内容は、母の2度目の夫が4月6日に死んだということ、葬儀や手続きは1人で済ませたということ、夫に借金があってその連帯保証人になっているので相続放棄の手続きをしたとのこだった。(正確には最初のメールで手続きを妹に依頼してき、次のメールで自分ですると伝えてきたらしい)

2011年8月に1を書いた時点で2度目の夫は余命数ヶ月とあったが、それから8ヶ月。期間は少し長かったが、それは現実となった。俺はその人の名前も顔も住所も何も、知らないままとなった。

妹の足踏み

呪縛とは恐ろしいもので、妹に関しては俺よりもさらにひどい。巧妙に母親から管理抑圧されていて、本当に身体的にも具合が悪くなるほどのことを長年・繰り返しやられてきた。母親からの接触があるたびあまりにも調子を崩すため、妹は医者の指導のもと、去年母に連絡を断る旨伝えた。
なのに、「お母さんから連絡があって」云々とたびたび揺れる。そんなものなら遮断する意思表示として着信拒否だのメールアドレス変更だのすればいいのにと思うが、そこが呪縛なのだ。「もしかしたら何かの時に連絡を取らなきゃいけないんじゃないかと思って」などと逡巡している。

母のやり口については、妹本人も自覚している。

「人を動揺させて意のままに動かすっていう甘い蜜の中毒」

「『娘の具合が悪くなるのは分かってるけど、こんな重大事なんだから、しょうがないわよね。これは例外よね?』っていう、“重大事”を、彼女は無意識に強く求めてる」

「私がなんとかつっぱねたり無視したりするたび、その“重大事”がだんだんエスカレートしていって、『前はだめだったけど、もっと重大なことが起こればあの子もワタシにかまわずにいられないはず!』っていう意図でもって現実を引き寄せ」

「お母さんに都合の悪いことに関しては、私、記憶が曖昧になる傾向がある気がする。- 中略 - 無意識にお母さんの都合のいいワールドの片棒を担ぐようにプログラムされているのかも? 」

とも分析している。(※以上は妹の蝕まれている状況を明確化するために、敢えて妹の言葉を引用)

これだけ自分で分かっていて、かつ医療専門家含む周囲から接触の機会を断つように言われていても、いざとなると頭が混乱して、自分を守る手段として連絡を拒否する具体的な手立てが取れないのだ。そして危険で侵されるとわかっている相手を心のどこかで「倫理観」に仮託して保護してしまう。

それは共依存に仕立て上げられた人の陥る危険だが、ゾンビ映画で恋人がゾンビに食われたのに「この人は私の恋人なの」と離れようとしない人物のようだ。あるいは、DVとか、恋人がストーカー化した時などの時に、被害者がなかなか自立や保護のための対策を取ることができないのと同じだ。倫理規範を守るように強く言われ、かつ世間一般的な親孝行的概念、人格を傷つけられ続けている一方で育てられ利益も享受した人間を断つということは人間としてすべきかというアンビバレントな葛藤、それらが渾然となって立ちはだかり、行動をせき止めてしまうのだ。

妹にはそんな状況から脱してほしいと切に願っているが、救いを求める一方でアドバイスを拒否する彼女の中の矛盾はどうして解決してやったらいいものかと、歯がゆく思う。

ところで、いくつか夢を見た。4月上旬くらいから特に多く、親と暮らした家にいる夢を。それは妹も同じだった。ある日、実家の居間だか食堂だかにいて、夕暮れて母が「あの子がまだ戻ってこない!」と怒ってぶつぶつつぶやいているのを見ているという夢を見た。この章で書いた一連が起こったのは、それから数日後のことだ。(2012年6月1日記)

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