ダークサイド I-11 残像と埋め込まれた物


『ダークサイド I-10 その後の母』からの続き)

好転したことと引きずる夢の中

母からの連絡を拒否してからは、まるでそれが物事をうまく行かなくさせていた原因でもあったかのように、いろんなことがうまく行き始めた。いくつかの派遣社員勤務を経てから転職した職場の環境もいい。とてもシステマティックで仕事がスムーズに運ぶところで、仕事で関係する人には嫌な人間はいない。能力的にも評価されている。
私生活上でも、今のパートナーと知り合い、毎日愛されている実感があり、精神的にも安定した。かつては不眠気味で、朝9時に仕事を開始していなければならなくても、夜中の3時くらいまでは起きていたが、大体午前0時半までにはベッドに入るようになり、ベッドに入るとパートナーの傍らで、すぐに眠りにつくようになった。それまでは眠りが浅く、よく夢を見ていたが、それも次第に少なくなった。

ところが、それからたまに見る夢が問題だった。父母の出てくる夢であることが多くなったのだ。もともと夢はよく見る方で、克明に覚えていることもあって、夢日記を記していたこともあるのだが、大体はファンタジックな、あるいはちょっとした現実世界の些細なことの投影であるような夢だった。それに代わって、両親の出てくる夢を見るようになった。

その夢は、大体こんな感じだ。夢の中の設定時間は深夜1時すぎから未明。家の裏や外をうろうろして、俺は家に忍び込もうとしている。家は、既に他人に渡ったことになっている。(現実世界でも、その家には現在誰か他の人が家を買って住んでいる)
大体そういう時には、玄関から眺めているか、玄関から裏手を回って勝手口に行き、さらにそこから家の西側を回って、南側の隣地から家を眺めているかしている。

こちらの見取り図参照 現存する家のため、1階のみを簡略化して図示
こちらの見取り図参照 現存する家のため、1階のみを簡略化して図示

夢では、家に入ることもある。家に入ると、父母が1階にいて、暗い中室内の灯りが局所的にあたり、虚ろな顔でいたり、不機嫌だったりする。そして大抵どちらか、あるいは両方と俺は喧嘩し、時には殺すこともある。父が何か詫びていることもある。どちらかの運転する車の助手席に乗って、どこかへ行こうとすることもある。

いずれにしろ、夢見が極めて悪い。未だ頭にこびりついていている考えたくないことが視覚化(知覚化?)されてそれを見せられるのは、気持ちが悪いものだ。その度に、前に進もうとしている自分を引きずり戻されている気分がする。俺はあまり超自然的なことをやみくもに信じたりはしないタチなのだが、父は既に死人だし(夢の中で既に死んでいると分かっていて対峙することもある)母は思念の強い粘着質なので、少なくとも後者は今も俺に関わることを諦めてくれていないのではと、じっとりとしたものを感じる。

埋め込まれた物

俺はこれまでに述べた性質を持った父母の子で、その遺伝子を受け継いでいて、彼らの間で育っている。他人と関わる時、うまく行っている時はいいのだが、うまく行かないと他人を無理に自分の思うとおりさせようとする傾向がある。まるで両親、特に母と同じだ。たまたまかけた電話がつながらず留守電になっているだけで腹が立つ時があるが、タチの悪いことに、それは相手との関係性が近ければ近いほど、腹立ち具合も大きかったりする。
そのことは自分で馬鹿げていて、これはその影響があるなと自覚している。電話くらいならいいが、前に馬の合わない人と付き合っていた時には大変で、モラルハラスメントともとられかねないような行動さえ起こし、その人には大変迷惑をかけ、傷つけた。

それ以降は、そういったことを厳に謹んでいて、現パートナーとの関係は良好だが、他人を無理やり自分のしたいとおりにしようとすることが再び現出しはしないかと、自分の中にあるその素因を考えて後ろ暗い気分になる。

両親のおかしな加減の程度は、特に後年にさしかかって甚だしさが増していたが、そのことを思うと、自分が人生後半を生きていくのに際してそんな風になりはしないかと、心配になる。ここで時系列的に書いてきた他にもおかしなところはいろいろあって、たとえば父は人が具合が悪いのを見ると、なぜかその具合の悪さが深刻で普通は笑えないような状態であればあるほど、それを見て「アハハ」と笑うのだった。感情表現がおかしかった。わざとではなく、自然と笑いがこみ上げてくるらしかった。ひとつ間違えれば、自分はサイコパスになってもおかしくはなかったと思う。

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