ダークサイド II-1 エナジー・ヴァンパイア


『ダークサイド I エピローグ』からの続き)

ダークサイドIでは俺の出生前の背景から現在に至るまでの経緯の部分を書いた。IIでは、現在進行形のことを記す。

忍び寄って侵す

豪雨で新潟や福島に甚大な被害があった2011年7月の最終週、後半のこと。いつもにも増して肩こりがひどかった。分厚い菱形の鉄板が首から肩、そして背中にかけて入っているようで、ガチガチに固まって、ストレッチ、運動、ビタミンB1主剤と筋弛緩剤の服用、マッサージ等々、何をしてもよくならなかった。
その原因について、頭のどこかで薄々疑っていたことはあった。あれが来たんじゃないだろうかと。でも、そのことを否定したかったのか、それのための対処を特段取らずにいた。

日曜日に、疑いは確証に変わった。知らせてきたのは、1通のメールだった。送り主は妹。母について書かれてあった。母は父の自殺後数年して、再婚しているが(ダークサイドI-9 『死んだ父と残った母』を参照)、再婚については、俺も妹も大賛成だった。何故なら、母の関心が再婚相手に向かえばこちらに対しては薄れ、人を精神的に支配しようとする母のあの強烈な負の力がこちらに向かうのを避けられる、少なくとも軽減できると思ったからだ。自分の不幸を他人のせいにして(しかも他人が自責の念に刈られるように仕掛けてくる)、他人が自分より幸せになるのを許さないあのどす黒い嫉妬と怨恨の広がりを。

負のうねり

負のうねりというのは、大変な力だ。母のあの、粘り気の強い、すべてを暗く深く飲み込んでしまう思念の実体は、言葉では表現することができない。
今年(2011年)3月の東日本大震災の時、会社で身を隠した机の下から見上げたビルの窓から、低くうねる黒い雲がドロドロと大手町のの空を覆いながら恐ろしい速度で流れていったのを見たが、ちょうどそれに似ている。
しかし、母のそれがあの雲と違うのは、形と境界線を曖昧にして、流れてくる方向も分からないまま、気づくと包囲され、侵入してくるところだ。

父が自殺した時、その少し前から父は正気を欠いているような行動をする時があった。あれは、母が父を蝕んでいたのだと思う。そして、父は死んだが、形としては自殺でも、あれはエネルギーを吸い取られきって、肉体を維持していることが無意味になった結果に思われる。人を責める(自責の念を生み出すように操作する)→その人が努力する→また責める→疲弊する、という過程で、母は父を侵食していった。そして、今回、妹が伝えてきた母の再婚相手の変化に、俺は愕然とした。

再婚相手が、余命数ヶ月だという。

餌食

それを聞いた時、俺も妹も思った。ああ、やはりまたやってしまったな、と。
母は相手に取り憑き、その人の魂を支えているエネルギーをすすり取る。その相手が善良で人に疑いを抱かない性質であればあるほど、骨の髄までしゃぶるのだ。
そして、常に自分の子供は支配のターゲットであり続けなければならない。自分の意に染まない相手 ~母がそんなモノであることを知って、侵食を拒もうとする子供達~ に再び取り入るために、母は外界の境遇を変化させさえすることを、我々兄妹は知っている。再婚相手は母のそうした餌食になったのだ。

再婚相手には悪いが、それを俺も妹もそんな母の性質から、再婚すると聞いた時にその相手が衰弱していくのではないかと、なかば予想含みで危惧していた。ただ、危惧していたものの、こんなに早く母がエネルギーを吸い尽くすという事態は、予想を超えていた。相手が高齢で(1940年生まれの母より年上らしい)、高齢だと弱るのも早いのだろうか。

関わった人が死ぬ

実は、母に深く関わった人が死ぬというのは、これが父に次いで2人目のケースではない。母の関わった人間で、死んでしまった人がもう1人いたという。そのエピソードについて俺は詳細を知らず、妹から死んだということだけ聞いている。となるともうこれで、3人目だ。
ともかく、エネルギー供給の役目を果たすその人の命が終わろうとしている今、母の興味の矛先は、自分が支配すべきと考えている子供達へとまた向き直ったのではないか。恐ろしいのは、本人はそんなこと意図してもいないと言いながら、行為や言動はすべてその内なる黒いあれに忠実であるところだ。

尤も、俺は母から試みられる侵食一切を拒否する心づもりができている。取り入らせてはダメだとわかっているので、これからどんなパターンがきてもはねつける。それでも今回は、肩こりで、起きたら首が回らないほどガチガチになったりした。
妹は、つい、情にほだされてしまうやさしさがあって、そこに取り入られるのが危ない。今回を期に、「今後どんなパターンで仕掛けられても憐憫をかけないように注意しておかないと、また蝕まれるから、よくよく気をつけておくように」と妹には言っておいた。既に妹も、先週調子を崩したようだったが。

超自然的すぎて、こんな話は笑止だろうか。母のようなケースを、甘く見てはいけない。あれは、人の形に仮託した、思念が実体とでもいった方がいいものなのだ。
そうそう、前にも何回か経験してはいるが、今回も俺はこんな変調をきたした。なんでもない時に、自分で考えてもいないセリフが、突然口から出たのだ。複数回、何の脈絡もなく。しかも、普段女言葉など使わないのに。

「死になさいよ」

と。

(II 2011年8月記述開始
『ダークサイドII-2 アローン・アゲイン』へ続く→