食に暮れ、食に明ける(年越し編)


今年は年末にパーティーもせず、じょにおと2人で平穏無事に年越しをし、穏やかな年明けを迎えた。食の記録を書くが、長くなりそうなのでまず今回は年越しパート。

31日には、2人で新宿の伊勢丹に向かった。今年のおせちは近所の馴染みの店の中華風おせちを予約してあるので(後掲)、ワインやシャンパーニュを飲む時のためのチーズを買い足して、夕食のオードブルを用意するのが目的。地下にはやはり人出が多かったが、予想していたほどの混雑ではなかった気がする。

さて、帰ってきての大晦日の夕食は、3段階に分けて。年越し蕎麦は食べねばならないし、何かちょっとした惣菜も食べたいし、ワインとシャンパーニュも欲しい、という贅沢のために。

1食目 チーズ、テリーヌ、ワイン

まずは夕方に軽くチーズ、テリーヌとワインでスタート。ワインはシャンボール・ミュジニーのそこそこの物。そこそこではあるけれども、エレガントで破綻がなく、穏やかな年越しにぴったりの味。食べ物は、チーズを4種と、フォアグラといちじくのテリーヌ。これを食べたら夕寝をして、それから次の食事にしようという寸法。

夕方1食目の光景。
夕方1食目の光景。

しかし、軽くのはずが、このテリーヌが結構なボリュームで、チーズと共に食べたらもう立派に1食を食べてしまったような気分になった。なので、これはこれで完結しておいて、次にちょっとコーヒーとお菓子で〆ることにした。食事のスタートは5時半、夜は長い。形式も順番も自由にできるのが、家で食べるののいいところ。

小休止 マカロン・ファイナル・ジャッジメント

で、試してみたかったお菓子を買ってきていたので、それを。

色とりどり。
色とりどり。

そう、マカロン。実はいままで、マカロンをおいしいと思ったことは、正直なかった。コース料理の最後、デザートも出た後に、コーヒーや紅茶と共に添えられて出てくる添え物的なお菓子という印象しかなく、「ふーん」という程度。マカロンをもてはやす理由がさっぱり見当たらなかった。そこで、それは自分にはマカロンという食べ物は合っていないのか、それともおいしい物に出会っていなかったので分からなかったのかを、これでもって判断しようということで買ってきたのだ。これでおいしくなければ、もうマカロンは出されても食べない、というつもりで。

いわば、マカロン・ファイナル・ジャッジメント。ファイナル・ジャッジメントであるからには、やはり名品と言われているもので試さねば、と、ピエール・エルメで調達。

そして、試してみた。「!」…旨い。おお、という驚きがある。さっくりとした感触の中に、豊かなクリーム、そしてあふれるフレイバー。ああ、これか、と、マカロンを食べて初めて納得。今までのオマケマカロンとは、全然違った。食感、味、香り、そして見た目と、マカロンが愛されるのは、こういうマカロンなら分かる。このファイナル・ジャッジメント、「マカロンは美味しい!(ただし一流の作り手のなら 笑)」という結論になった。

そして夕寝をして、おもむろに次へ。

2食目 オードブルとシャンパーニュ

次はやはりシャンパーニュの出番。今年の〆のシャンパーニュとして開けるのは、これ。

Françoise Bedel Entre Ciel et Terre
Françoise Bedel Entre Ciel et Terre

Françoise Bedel Entre Ciel et Terre(フランソワーズ・ベデル アントル・シエル・エ・テール)は、レコルタン・マニピュラン(自家畑のぶどうからシャンパーニュを作る醸造家)のなかでも、ビオ・ディナミ(自然農法だが、月の満ち欠けなどをもとに耕作のスケジュールが決まるなどの要素を含んだちょっと不思議な農法)の第一人者的実践者であるフランソワーズ・ベデルが醸すシャンパーニュ。そうした自然と一体となった製法を用いていることが、このロマンティックなエチケットの図柄に体現されている。Entre Ciel et Terreとは、「空と大地の間に」の意味。

公式サイトにはサン・テグジュペリの言葉の引用がある。曰く、

” We do not inherit this land from our ancestors. We borrow it from our children.”
(この地は先祖から受け継いだものではない。子どもたちから預かっている物なのだ)

と。なるほど。サイトメニューも、商品を紹介するコーナーは下の方。農園、ぶどう畑、ビオディナミ、自然農法の進化、収穫と圧搾、醸造(発酵から澱抜きと補糖まで)、土地の耕作、ときてやっとその下にシャンパーニュの紹介がある。

Entre Ciel et Terreは作柄の良い年に作られる。このロットの収穫年だが、裏のラベルからは明らかにならなかった。が、輸入業者のホームページによると、2004年産90%、2002年産10%のいわゆるマルチビンテージのようだ。
デゴルジュマン(澱抜き)は2011年12月。ドサージュ(澱抜き後のリキュールによる補糖)は6g/l。セパージュ(ぶどう品種の比率)は、ピノ・ムニエ80%、ピノ・ノワール20%のブラン・ド・ノワールなんだとか。珍しくピノ・ムニエが主体だが、この比率は年によって変更されるらしく、最新のWebに載っているものはピノ・ムニエ100%。6年の熟成を経て出荷されるとかで、丁寧な作りがされているようだ。ちなみにリュミアージュ(澱を瓶の口に集めるための熟成過程における瓶回し)も手で行われているようだ。

ピノ・ムニエが主体ということで、フルーティーなふくらみのある味わいを予想。

食事は、マンゴー・ツリーの惣菜を取り合わせて買ってきた。タイ料理とシャンパーニュ?と疑問に思うかもしれないが、これがちゃんと合う。もちろん、食材によるけれども。俺もじょにおもタイ料理は大好きで、タイ料理で〆というのも、大有り。

シャンパーニュも注いで、準備完了。
シャンパーニュも注いで、準備完了。

Entre Ciel et Terreは、思ったとおり、ふくらみのある味わいだったが、予想外にパワフル。果実の力がある感じで、エスニックフードとも堂々渡り合う。特にパーナ貝のバジル風味や、タイ産手長エビのにんにく風味フライとはバッチリ。

しかし面白かったのは、その香り。シャンパーニュらしい深い香りもするのだが、もったりした甘いニュアンスもある。ぶわっと口中を支配するような。これは何だろうか、と考えていたら、じょにおが一言。

ねえ、これ、栗きんとんの匂いしない?

と。1食目の前、正月用にじょにおが栗きんとんを作っていたのだが、確かに。そう言われてみると、もう栗きんとんにしか思えない!(笑)おいしく飲んで食べたが、2012年最後のシャンパーニュは、そんなことを言いながらアハアハ笑いつつ飲み終わることとなってしまった。いや、いいシャンパーニュではあったし、真摯にシャンパーニュ造りをしている造り手には失礼なのだけど、あまりにシャンパーニュテイスティングのパレットとはかけはなれた栗きんとんがしっくりきたもので。そんな食事をしていたのが、8時、9時頃。

3食目 年越し蕎麦

さて、やはり〆には年越し蕎麦を食べなければ、と、10時半も過ぎて蕎麦を準備。今年の蕎麦は出雲の蕎麦。そして岩手の鴨肉を用意して鴨南蛮にした。

鴨肉。調理前。
鴨肉。調理前。

鴨南蛮というと、蕎麦つゆに鴨肉を放り込んで煮るのが一般的かもしれないが、焼き目を入れた鴨肉を乗せることにした。塩こしょうをした鴨肉を中火でじっくり皮目から焼いて、脂を出しつつ焼き目をつけたら全面焼いて、アルミホイルで包んで休ませる。

そして蕎麦を準備して、鴨肉を盛りつけて、完成。つゆはもちろん自前。つゆを作るのはそう面倒なことでもないから、うちでは市販のつゆの素を使わないで、さっと作ってしまう。

鴨南蛮の年越し蕎麦。
鴨南蛮の年越し蕎麦。

蕎麦の茹で具合、鴨肉の焼き具合も上々で、おいしく〆て、年越しの食事は終了。フランスとイタリアのチーズ、フランスのワイン、マカロン、シャンパーニュ、タイ料理、と来て、日本の料理で〆て、大満足。バラエティー豊かといえば聞こえはいいが、カロリーオーバーという文字も脳裏によぎりつつ、年明けへ。