Jacquesson Cuvée N°735


今月の1本(という言い回しもだいぶ怪しくなってきたが)は、基本に立ち返りスタンダード・キュヴェ。Jacquesson Cuvée N°735(ジャクソン キュヴェ735)。

Jacquesson Cuvée N°735
Jacquesson Cuvée N°735

製法のこだわりで知られるメゾンのスタンダードだ。スタンダードといっても、ジャクソンのシャンパーニュはすべて高品質なことで知られる。ここは圧搾したぶどうジュースの最初50リットル(100リットルともいわれる)ほどを不純物を嫌って捨ててしまい、それから後の純粋なキュヴェのみを使うが、作柄が適さなければまるごと廃棄してしまうのだとか。また、オーク樽発酵により熟成され、フィルトレーションを行わずに澱を沈静させる方法でじっくり造られるとのこと。

とかく「伝統」「高品質」「格調」が強調されるシャンパーニュメゾンにあっても、ジャクソンは由緒正しいメゾンとして傑出しているといえる。ナポレオン・ボナパルトの結婚式で供されたとか、クリュッグを興したジョセフ・クリュッグが醸造技術を学んだのはジャクソンであるとかいった逸話も有名なようだが、ミュズレーとキャップシールによる瓶詰め方式を発明したのはジャクソン家の2代目だとか、ぶどうの剪定方法としての長梢剪定(Guyot ギュイヨ)方式も彼の手になるなど、シャンパーニュ作りの歴史を振り返る時、ジャクソンの名は欠かすわけにはいかないようだ。

ジャクソンではノンビンテージのシャンパーニュでも、元になるリザーブドワインの年は明確だそうで、例えばこの735は2007年の物が72%、残りは22%が2006年、6%が2005年から引き継いだ物だとか。単一年ではないのでミレジメとは言えないが、ジャクソンはこれを「マルチビンテージ」と称している。そうした作りのシャンパーニュを「マルチビンテージ」と称したのはクリュッグの方が先かもしれないが、そもそもクリュッグの創立者はノウハウをジャクソンで学んだのだから、ジャクソンこそがマルチビンテージの元祖と言えなくもない。ちなみに735のセパージュ(ぶどう品種の構成)は、シャルドネ47%、ピノ・ノワール33%、ピノ・ムニエ20%。

さて、那覇から帰ってきて翌日の月曜日、これを食事とともに飲むことにした。じょにおの土日の夜の食事はいい加減だったよう。二人だとちゃんとするのに、一人だと食事が適当になってしまうのは分かる。この日のメインは自家製でボロネーズソースを作り、生パスタを供した。ジャクソンはパワフルなシャンパーニュと予想し、敢えての肉ベースの料理。

ボロネーズソースのパスタとともに。バランスを考えて茹で野菜のサラダも。
ボロネーズソースのパスタとともに。バランスを考えて茹で野菜のサラダも。

開栓。気をつけて抜栓したつもりだったのに、するりと抜けてポンと音が出てしまった。グラスに注ぐとクリーミーな泡が立つが、ややあって落ち着く。香ばしい発酵香もするが、初めから深い優雅なワイン本体の香り立ちがある。一口飲むと、香りから想像されるとおり、華やかさが圧倒的な迫力で迫ってくる。ミラベルプラムや黄桃のコンポートのような黄色い果実の香り、チェリー、アカシアの蜂蜜、そしてワイドな膨らみを散漫にさせないミネラルのタッチ。いきなりこんなに全開でいいのだろうかと思うようなダイナミックさ。しかし甘くはなく、素性の良い酸が感じられるのもいい。

そんな感じなので、目論見どおり赤ワインやトマトと煮込んだ黒毛和牛肉のボロネーズソースとも相性バッチリ。食事の楽しみを豊かに増幅させてくれる。サラダも生野菜よりは、茹で野菜のボリュームが合う。

あらためて色合いを見ると、密度のあるゴールド。泡は軽やか。この日は写真のとおりテラスで食事をしたのだが、液体のきらめきがひときわ気分をよくしてくれる。

良質な液体。
良質な液体。

2杯目以降は、ワァっと押し寄せた迫力に慣れると、ワイン本体の芯の強さや輪郭がはっきりしているのに幅広い味わいが、なんとも心地よく感じられた。樽発酵のニュアンスも華を添える。じょにおもこの1本が大変気に入ったよう。
メインの食事を終えて、チーズ(ピエダングロワ、メープルバターがけのロックフォールパピヨン)とパルマ産プロシュートも用意してみたが、そうした風味の強い物とも堂々渡り合うというか、良いマリアージュ。二人しておいしいおいしいと言いながら、大変楽しめた。酔い心地も軽やかで、体に負担にならない。

チーズ、プロシュートとともに。
チーズ、プロシュートとともに。

このCuvée N°735はジャクソンのスタンダードだが、味わいにコクと豊かさがあるクラシックなタイプで、シャンパーニュは軽やかさやキレが第一という人には向かないかもしれないが、我々の好みには大変合っていた。値段も他のプレステージやミレジメのシャンパーニュに比べればさほど高くないので、ポピュラーな銘柄以外に何かシャンパーニュを探していて、パーティーや食事で楽しみたいというなら、これを選ぶのは大正解だと思う。俺なら、これをもらったらすごく嬉しい。(笑)