犬も食わない3、40分とペリエ・ジュエ


うちは俺とじょにおの2人暮らしで、休みが合うのは隔週に1度の日曜日しかない。しかし、一緒にいる時間は大事にしていて、食事はできるだけ一緒にするし、休日が重なった時には大抵一緒に外出するなど、仲は良い。が、お互い仕事の疲れを押して日頃のことをやっているという理解が足らずに、先週末金曜日に珍しく気まずい感じになった。

詳しくは略。お互い疲れていて、それぞれを思いやって気持ちを汲み取ることができなかったのが原因だった。大声や手を上げるなんてことはもちろん考えられもしなかったけれども、俺の怒りは十二分。夕食の時間にそれがあったのだが、俺の分の食事は半分食べかけの時に俺が捨ててしまったくらいの勢いだった。それでも、諍いを恣意的に続けることは無意味とお互いすぐ悟り、詫びて、ものの3、40分で収束したのだが、じょにおの好物だったにもかかわらず、じょにおもそれ以上食べる気になれずに、そこでその夜の食事は終わりにして、片付け、コーヒーを入れた。我が家では、いつも夜の食事を終えると片付け物をして、コーヒーはソファーで飲むことにしている。コーヒーをソファーで一緒に飲む頃には、いつものように寄り添っていた。

多分、つまらない意地の張り合いをするタイプだったら、こういうあっさりとした収束の仕方はしないのではないかと思う。あるいは、表面上は収束しても見えないところでくすぶり続けるとか。こじれる前に冷静に考え、素直になることができるお互いでいて、ラッキーだと思う。

◇ ◇ ◇

食事は残念でもったいないことをしたので、この夜はどうしても気分を挽回するものが欲しかった。なので、ちょっといいシャンパーニュを開けることにした。マダム・リリー・ボランジェはDaily Mail紙のインタビューに答えて「幸福な時、悲しい時、シャンパーニュを口にします。」と言ったそうだから、こうした気分の起伏を体験した時は、飲んでしかるべき時なのだ。と無理やりこじつけて、(笑)ストックの中から選んだ1本はこれ。ボランジェではなく…

Perrier-Jouët Belle Epoque 2004
Perrier-Jouët Belle Epoque 2004

Perrier-Jouët Belle Epoque 2004(ペリエ・ジュエ ベル・エポック2004)。シャンパーニュを嗜むことについてはまだまだ修行中、基本的にプレステージラインではなく、メゾンの特徴を一番よく表すスタンダードかプレミアムラインくらいを飲むのを基本にしているのだが、やはりよい評判には心動かされるもの、これはプレステージライン。エミール・ガレの描いたアネモネのボトルデザインが、ペリエ・ジュエのアイコンになっている。

せっかく開けるのだから、これがじょにおの好みに合っているようにと祈りながら開栓。じょにおはシャンパーニュに関して俺よりも好みがはっきりしていて、かつ厳しいのだ。留め金を緩めてコルクを少しひねると、予想外にスポンとあっけなく栓が抜け、少しこぼれて、慌てた。文字通り泡を食った寸法だ。

グラスに注ぐと、品の良い香りと泡の立ちのぼり方が心地良い。セパージュ(ぶどう品種の割合)は、ピノ・ノワールとシャルドネが半々とか。色はピノ・ノワールが半分にしては淡い。

上品な佇まい。
上品な佇まい。

最初は華やかでありながらも上品。ボトルデザインに花があしらわれているからというわけではないが、花のような香りとブリオッシュの軽い香りがし、口当たりは軽やか。整った酸味と、喉を通った後の苦味を少し感じる。果実味は適度に残っているが、シャンパーニュとしての完成度が高く、ぶどうからは完全に違う飲み物に変貌している。

ミュズレーにもアネモネの花。
ミュズレーにもアネモネの花。
ミュズレーの裏にもアネモネ模様と"Cuvee Belle Epoque"、そしてPerrier-Jouëtの表記。
ミュズレーの裏にもアネモネ模様と"Cuvee Belle Epoque"、そしてPerrier-Jouëtの表記。

一応Brut表記なのだが、極端に辛口ではなく、味もバランスが取れているので、全く違うタイプで3種用意したチーズのいずれとも合った。

左からトリュフ・ブリー、スティルトン、ムルシア・アル・ヴィノ。
左からトリュフ・ブリー、スティルトン、ムルシア・アル・ヴィノ。

後半には、良いシャンパーニュにつきものの香りの変化があり、より深くセクシーな深い香りになった。シャンパーニュの香りを表現する香りのパレットは色々見本があるが、どれをもってしてもたとえ尽くせないような。幸い、最初から最後までじょにおの好みに非常に合うようで、ほっとした。

気持ちよく酔って気持ちもほぐれて夜も更け、ふと窓の外を見ると、晴れた夜空が翌日は花見日和だと教えていた。Perrier-Jouët Belle Epoque 2004は、上に書いたいきさつのうえで飲んだもので、より印象的な1本となった。ここで一句:

犬食わぬ話の後に 泡食って 星のまたたく* シャンパーニュの夜

お後がよろしいようで。

(注 * =シャンパーニュの製法を確立した修道士ドン・ピエール・ペリニヨンがシャンパーニュを例えて「まるで星を飲んでいるようだ」と言ったと言われることに由来する)