ささやかな贅沢という名の勉強 André Clouet


いろんなことに好奇心は持っているのだが、じゃあ趣味は?と聞かれると、今はこれといって即座に挙げられるものがないなか、去年末に何となく飲んで以来始めたシャンパーニュテイスティングは、趣味っぽいものになりつつある。といっても大仰なものではなく、ちょっといいのを買ってきて、月1本飲んでみるという、ささやかなものだ。「ささやか?!」と怒られるかもしれないが、プレステージシャンパーニュをポンポン開けるのではなくて、まずは代表的な銘柄のもののメインラインか、もしくは少し限定されたものを飲んでみて、特徴を理解しつつ楽しもうというものだから、金をかけている人はもっとかけているだろうし、上限は際限ないなか比較的ささやかという意味だ。(でもそのうちもっと……、とかいうとまたじょにおに怒られる)

さて、そんな訳(どんな訳? 笑)で、今月の1本。André Clouet Grande Reserve Brut(アンドレ・クルエ・グランド・レゼルブ・ブリュット)。これは、恵比寿のワインショップ「ワインマーケットパーティー」でソムリエに相談した時に勧められ、買ってきたもの。ダイナミックな飲みごたえで、時間とともに風味の変化するのが楽しめるものはないかと聞いて、これを勧められた。比較的値段も手頃な1本。

André Clouet Grande Reserve Brut
André Clouet Grande Reserve Brut

アンドレ・クルエはどんなシャンパーニュメゾンなのか調べてみると、いろいろ修飾的な周辺情報のあるシャンパーニュメゾンである。スウェーデン王室ご用達であるとか、三ツ星レストラン『タイユバン』のワインリストにあるとか、メルセデス・ベンツのプロモーションとタイアップしたとか。しかし、結論からいうと、飲んでみてあまりそういったところのイメージから予期される華やかさはなかったというか、正直、よく分からないというか、響かない感じだった。

さて、↑のような修辞はともかく、シャンパーニュの作られ方から見ると、ラベルに見られる表現は慎ましやかだ。グラン・クリュのブドウ100%なのはGrande Reserveからは知れるが、ピノ・ノワール100%なら通常はブラン・ド・ノワールと書かれてありそうなのに、それはラベルに記載がない。開栓のためコルク部分を覆う箔をはがしてびっくり。青地に金文字のラベルとはそぐわないポップなおじさんの絵のミュズレーが出現。

色がまた微妙。
色がまた微妙。

へえ、面白いと思いながら開けて(コルクは埋栓先が太いものではなく、太さが均一で細く、しかも比較的短いものだったので、図らずも「ポン!」と勢い良くというかあっけなく抜けてしまった)、注ぐ。色は淡い黄色。ブラン・ド・ノワールなので淡いオレンジを帯びた黄金色を予想していて、ここも裏切られる。

泡立ちは普通~やや穏やか。
泡立ちは普通~やや穏やか。

香りはトーストのような感じと、洋梨など複数の果物香。泡は注ぎ始めは勢いがあるが、すぐに落ち着く。一口飲んで「ん?」。シャンパーニュらしいというか、一般に飲みつけない人がイメージするシャンパーニュの感じはするのだが、口を引き締める感じがあって、それはタンニンではなく、どちらかというと鉄のようなものを感じる。ああ、いわゆるミネラルか。(たまにワイン用語で「ミネラリーな」と表現する人がいるけど、あの言葉はあまり好きではない)ブラン・ド・ノワールに期待するブドウ本来のふくよかさはあまりない。そして、Maillyを飲んだ時のようなグラン・クリュらしい奥行きやなめらかさが感じられない。

「うーん、どうなんだろうね、これは?」と、じょにおと飲み進める。チーズを4種類用意してみたが、わずかに味わいは変わるものの、「このマリアージュはいい!」と思える出会い方ではない。「ちょっとこれは合わないね」というのも、逆にない。アンドレ・クルエは、華やかな話に彩られた八方美人の独身主義者か。(笑)

味わいが繊細というよりは、細い感じ。そこに、酸やとげとげしたミネラルがあって、なんとなく親しみづらいというよりは、シャンパーニュ自体がこちらに寄り添ってこない。グラスの底に少量残るくらいになると、少しふっくらしたやさしい香りがするが、新しく注ぐとそれは消えてしまう。そして、温度が変わり、時間が経ってもそう顕著な変化の面白さはなく。なんだろうね、なんだろうねと言っているうちに、1本終了。

うーん。勉強になりました、という感じか。シャンパーニュのなかにはこういうのもありますよ、ということでは飲んでもいいかもしれないが、シャンパーニュのおいしさや優雅さを知ってほしい場合には、あまり勧められない1本だった。そしてあのソムリエからはもう買わないぞ、と。

ところで、人間いろんな分野にまたがる生活をしていて、そのひとかどにあるメインでないものこそが趣味と思っているのだが、世にシャンパーニュブログは数あれど、見てみるとそれが商売とか、シャンパーニュやワインだけのためにブログを開設しているとか、そういうものばかり。と考えると、こんなことをやっているのは値段の高い安いに関係なく、やはり贅沢ということか。さて、来月は何にしよう?